私がブラックフォーマルを初めて購入したのは22歳の時でした。
もちろん自分でお金を出して購入したのではなく、社会人になる前にこれだけは用意しておきなさいと母が買ってくれたものでした。
当時、ブラックフォーマルといえばデパートで購入するのが一般的だったと思います。
私も母に連れられて、普段は歩くことのない婦人服売り場の一番奥にあるフォーマルコーナーに行った記憶があります。
そこに並べられているのは、一見何の違いもない、真っ黒な服の数々でした。
普段洋服を買っているブランドショップの店員さんたちとは違う、経験豊富そうな年配の女性店員さんが、母と私を見比べながら、どんなフォーマルウェアをお探しですか?と、声をかけてきます。
何も知らない私は すべて同じように見える真っ黒な服たちから どう選べばいいのか全く見当もつきませんでした。
そんな私をよそに、母は手慣れた風に「この子は背も高いし体格もいいから、可愛らしいワンピースよりもかっちりとしたスーツタイプがいいかしら」などと言って店員さんと談笑を始めました。
そうすると店員さんは私からは全く同じように見えた吊るされた黒い服の中からあっという間に2~3着選び出して、私の前に広げて見せてくれました。
すると、パイプハンガーに吊るされていた時は、同じ素材、同じ黒、同じ形に見えた服たちが意外なほど異なっていることに気づきました。
単に好みというだけでなく、どのように見られたいか、長く使うために、どんなことに気をつければいいか、合わせる靴やカバンのこと、数珠などの用意しておくとよい小物、一度来たあとのお手入れの方法まで、フォーマルコーナーの女性店員さんのお話は止まりませんでした。
1時間ほどで、私の初めてのフォーマルウェアは決まりました。
色はもちろん、黒。
それでも普通の服の黒とは全く違う、フォーマルウエアならではの黒です。
飾りの一切ない膝を隠す丈のワンピース。
襟元は浅めのボートネックになっていて、ハタチの誕生日に祖母にもらった真珠のネックレスとピアスがとても映えそうなデザインです。
袖は肘が隠れるぐらいの5分袖になっていて、夏ならワンピース1枚で着ることができます。
セットアップになっているジャケットは、お尻が半分隠れるほどの少し長めの丈で、その当時は珍しい、一つボタンのシンプルなものでした。
ジャケットの襟はメンズライクな形で(調べたらノッチド・スリムという名前だそうです)、グレーのパンツと合わせれば形だけならおしゃれなジャケットのように見えるものでした。
値段は確か10万円を超えていたと思います。
普段、ヤングカジュアルのフロアでしか買い物をしたことがなかった私は、その値段の高さにとても驚きましたが、母曰く、長く使うものだし、その割に何回も着るものではないから、安いものを買うと、きちんと管理できないかもしれないと苦笑いしながら買ってくれました。
結局、そのフォーマルウェアを着ることになったのは、それから二度だけ、祖母の葬儀と、社会人になってから、会社の上司のお母様が亡くなられた時に社員一同で参加した葬儀の時だけでした。
それでもやはり、きちんとしたフォーマルウェアを持っていたことは、決して高い買い物ではなかったと思います。
同僚の若い社員たちが、ありあわせの黒い服でなんとか急場をしのぐ中、きちんとした喪服を用意することは葬儀の場の厳粛さを保つ上でとても大切なことだと気づきました。
なぜ2回しか着られていないかと言うと、幸いなことに、お葬式に参加する機会がその後なかったということもありますが、私自身が妊娠出産を経て当時から大分増量してしまったからです。
妊娠中に一度、ご近所のかたの通夜に参列したことはありますが、妊娠中ということ、通夜の参列ということもあって、その時はフォーマルウェアではなく、単なる黒い服で間に合わせることができました。
それからもう5年ほどが経っています。
今のところ葬儀に参加しなければいけないようなことを想像する必要をあまり感じなくて済む環境にいますが、当時母に、お葬式はいつあるか分からないものだから何も心配しなくて済むと思っているうちにきちんと用意しなければいけないと言われたことを思い出しました。
他のサイズアウトした着られない服は全て、断捨離ブームのときに、また痩せることができたらその時に新しいものを買おうと捨ててしまいましたが、今は全く入らないフォーマルウェアだけは、きちんと管理して残してあります。
普段使うこともないのに、なぜこのフォーマルウエアだけ捨てずにとって置いたのか、自分でもよく覚えていませんが、なんとなくこれを買った当時、母と店員さんの「大切に扱ってね」という話が忘れられなかったからではないか、という気がします。
目標はとてもとても遠いですが。
またこのブラックフォーマルを着ることができるように、ダイエットに励みたいと思います。
最終更新日 2025年5月20日 by packet